本研究では、ライフサイエンス研究において最も重要度の高い2から20MeV/uのHからArまでの重イオンを用いて、イオン照射直後に水中に生成する過渡活性種の収率を測定するとともに動的挙動を直接観測することで、実験・理論的にダイナミクス解析を行った。まず、水中における量子ビーム反応において重要な役割を担う水酸化(OH)ラジカルについて、照射イオンの特性や経過時間をパラメータとして、ナノ秒の時間領域における収率測定を行った。その結果、重イオンの核種の増大あるいはエネルギーの低下によるイオン飛跡周りのエネルギー付与密度が高くなる条件においてOHラジカル収率が低くなることが分かった。さらに、照射直後からの時間経過に伴う拡散・反応によりOHラジカル収率が減少することを明らかにした。この実験結果は、イオン飛跡周りのエネルギー付与構造により決定される活性種の初期分布とその後の拡散・反応現象の時間分解・空間分解解析結果により良く説明できた。さらに、昨年度までに構築した重イオン照射下時間分解光吸収測定システムの高度化を図るとともに、水中酸化反応で重要なOHラジカルや還元反応で重要な水和電子によって引き起こされる反応の直接観測を行った。具体的には、OHラジカルとKSCNとの反応で生じる(SCN)_2^-の生成や消滅反応などを直接観測するとともに、溶存酸素の効果や添加剤の影響、照射イオンの核種やエネルギー依存性などの解析が可能となった。以上の結果より、重イオンに特徴的な照射効果を引き起こす、主要な活性種挙動について、実験・理論的に解明できた。
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