本研究では、種間交雑-倍数化による新しい種の形成プロセスにおいて重要な役割を果たす、非還元配偶子形成の遺伝的メカニズムの解明を目指す。パンコムギ(Triticum aestivum、六倍体、AABBDDゲノム)の祖先野生種タルホコムギ(Aegilops tauscheii、二倍体、DDゲノム)には、マカロニコムギ(T. durum、四倍体、AABBゲノム)と交配した場合、正常に成長し高い自殖種子稔性をもつF1雑種(三倍体、ABDゲノム)を生じる系統(タイプA)と、正常に成長するがほぼ不稔となるF1雑種を生じる系統(タイプB)が存在する。タイプAのタルホコムギ由来のF_1雑種は、特異な様式の減数分裂によって非還元配偶子を高頻度に形成し、安定な六倍体F_2を生じる。本年度は、タイプAとタイプBの表現型の違いを利用し、非還元配偶子形成に関与する遺伝子を連鎖分析する目的で、以下の実験を実施した。 【三倍体F_1雑種の自殖種子稔性に関するQTL解析】三倍体F_1雑種の自殖種子稔性は、この植物における非還元配偶子形成頻度をよく反映する。そこで、タイプAとタイプBの交雑F_1を花粉親としてマカロニコムギと交配して得た[マカロニxタルホF_1]F_1の300個体を栽培し、自殖種子稔性について分離データを得た。その結果、昨年と同様、自殖種子稔性には明瞭な分離がみられ、この形質の遺伝分析が可能であることが確認された。また、各個体からDNAを抽出し、105のマイクロサテライト・マーカーを用いて、93個体の遺伝子型を調査し、自殖種子稔性データとともに、QTL解析に供した。区間マラピング解析の結果、統計的に有意なQTLが検出された。このことから、タルホコムギ・ゲノム上には、自殖種子稔性の高低に影響する遺伝子座が存在することが示された。
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