シロアリ腸内には大量かつ多様な細菌が存在し、餌である枯死植物の分解発酵や空中窒素固定など、宿主シロアリに必要不可欠な役割を担っている。これらの細菌の99%は現時点で培養不能であり、報告者(本郷)らは培養を介さない方法によって群集構造と腸内局在解明を試みてきた。しかし、これら米培養細菌の機能解明には新たな手法の確立が必要であり、それが本研究課題のテーマであった。報告者は、ファージ由来のPhi29 DNA合成酵素を用いてわずか数百個の細菌細胞からゲノムを全増幅して、未培養細菌ゲノム完全長の取得を試みた。 報告者が標的としたのは、ヤマトシロアリ腸に共生するセルロース分解性原生生物Trichohymha agilis(トリコニンファ・アギリス)の、さらにその細胞内に共生するRS-D17細菌(未培養審問Termite Group1に属する細菌の1種)である。上記手法によりDNAサンプルを調製して配列解析したところ、1.1メガ塩基対の同細菌の環状ゲノム完全長取得に成功した。ゲノム配列から、この細菌は細胞壁合成系・防御系、自己複製調節機構など多くの遺伝子群を失っている一方で、アミノ酸合成系など窒素代謝系遺伝子を豊富に維持していることが明らかとなった。これにより、この細菌が、シロアリの餌である木材に欠乏する必須アミノ酸などを合成して宿主原生生物とシロアリに供給するという、相利共生を行っている事が強く示唆された。この成果は米国科学アカデミー紀要に掲載され、理化学研究所からプレスリリースされた。現在、報告者が確立した同手法を用いて、数種類の難培養性細菌ゲノムを解読済みあるいは解読中であり、順次学会・論文発表していく。
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