真核細胞では核と細胞質の間での物質のやりとりが不可欠であり、多様な核・細胞質間輸送システムによって真核細胞の生理機能が巧みに調節される機構を明らかにすることは、細胞生物学のひとつの中心的課題である。本研究では、平成18年度は特に生理的に重要で一般的興味が高いexportinであるCRM1によって担われる核外輸送経路について、核内でのCRM1とRanGTPによる輸送基質の認識から細胞質での核外輸送複合体の解体までの一連の蛋白質相互作用が起こる仕組みを原子レベルで理解するため、X線結晶解析による構造解析のための蛋白質の発現・精製・結晶化に精力的に取り組んだ。その結果、「CRM1/RanGTP/輸送機質複合体」ならびに「CRM1/RanGTP/RanBP1複合体」について、大腸菌での発現条件・蛋白質精製法・結晶化条件に様々な工夫を施すことにより、これら2種類の蛋白質複合体の微結晶を得た。すなわち輸送メカニズムの核心である「核内での核外輸送複合体の形成」および「細胞質での核外輸送複合体の解体」の両方について、それぞれ鍵を握る蛋白質複合体の結晶化に成功した。 CRM1による核外輸送経路で形成される複合体は、長年結晶化が難しいと言われてきたものであり、輸送メカニズムを理解するために必要不可欠な分子認識の構造的知見が待ち望まれている。今回、サンプル作りを工夫することにより、CRM1による核外輸送システムにおける重要な蛋白質複合体を精製し微結晶を得たことは大きな進歩である。今後構造解析に成功すれば、分子レベルでの細胞生物学の理解を進展させる大きな成果になるものと期待される。 また、平成18年度は細胞生物学的機能解析の実験系の立ち上げにも着手し、出芽酵母の分子遺伝学や蛍光顕微鏡による蛋白質動態観察などについて、研究基盤を整備した。
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