真核細胞では核と細胞質の間での物質のやりとりが不可欠であり、多様な核・細胞質問輸送システムによって真核細胞の生理機能が巧みに調節される機構を明らかにすることは、細胞生物学のひとつの中心的課題である。本研究では、特に生理的に重要で一般的興味が高いexportinであるCRM1によって担われる核外輸送経路について、核内でのCRM1とRanGTPによる輸送基質の認識から細胞質での核外輸送複合体の解体までの一連の蛋白質相互作用が起こる仕組みを原子レベルで理解することを目指している。これまでにX線結晶解析による構造解析のための蛋白質の発現・精製・結晶化に精力的に取り組んできた。前年度に微結晶を得た「CRM1/RanGTP/輸送機質複合体」ならびに「CRM1/RanGTP/RanBP1複合体」について、平成19年度は大腸菌での発現条件・蛋白質複合体精製法・結晶化条件に様々な工夫を施したり発現コンストラクトを改良することにより、特にCRM1/RanGTP/RanBP1複合体について、結晶化の再現性の改善、結晶の大型化に成功し、X線回折データの分解能にも改善がもたらされた。また、exportinの機能を理解するためには、「exportin単独の構造」と「exportinが輸送基質とRanGTPと複合体を形成したときの構造」の違いを明らかにすることも必要である。平成19年度はCRM1単独についても結晶化に成功した。本研究でこれまで結晶化に成功したものについて、今後構造解析に成功すれば、分子レベルでの細胞生物学の理解を進展させる大きな成果になるものと期待される。
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