真核細胞では核と細胞質の間での物質のやりとりが不可欠であり、多様な核・細胞質間輸送システムによって真核細胞の生理機能が巧みに調節される機構を明らかにすることは、細胞生物学のひとつの中心的課題である。本研究では、特に生理的に重要で一般的興味が高いexportinであるCRM1によって担われる核外輸送経路について、核内でのCRM1とRanGTPによる輸送基質の認識から細胞質での核外輸送複合体の解体までの一連の蛋白質相互作用が起こる仕組みを原子レベルで理解することを目指した。これまでにX線結晶解析による構造解析のための蛋白質の発現・精製・結晶化に精力的に取り組んできた。その結果、高分解能まで回折する良好な結晶を得ることができ、特に核外輸送の方向性制御の鍵を握る、細胞質におけるCRM1 : export-cargo : RanGTP複合体の解体メカニズムの理解を深める構造解析に成功した。結晶構造解析の結果は、CRM1の構造動態、すなわちCRM1が複数の異なる構造をとりうること、がCRM1のexportinとしての機能にとって決定的に重要であることを示唆するものであった。私たちはさらに、CRM1構造動態の機能的意義を溶液中でのFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)解析によって検証した。これは今後、生細胞内での実験に発展させることができると期待される。これら一連の成果は、核外輸送の本質を理解するうえで重要な意義をもつ。
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