本研究においてはく、p53の下流遺伝子のうち細胞老化に関与する遺伝子の単離と同定を試みている。研究計画書における19年度の具体的な実験計画は次の通りである。1.p53による直接的な転写制御の検討2.細胞増殖へ与える影響の検討3.抗体の作成4.分泌蛋白質、膜蛋白質において、精製蛋白質や中和抗体を用いた細胞増殖への影響の検討 今年度は細胞老化により最も顕著に発現誘導されかつ前立線癌組織において発現低下のみられたp53SA1を中心に解析をおこなった。まずこの遺伝子領球についてp53結合配列を検索しCHIPアッセイ、レポーターアッセイによりp53の直接の下流遺伝子であることを証明した。さらに内在性の老化刺激である酸化ストレスにより顕著に発現誘導されること、老化刺激の際にp53の発現を抑制すると発現誘導が見られない事から、p53がこの遺伝子発現誘導に重要であることを示した。またrecombinant蛋白質を用いて抗体を作成し、Western blottingにて抗体の特異性を確認した。今後正常組織、前癌病変、癌病変に加え、老化によって生じる変性組織(動脈硬化巣、変性関節組織など)での発現を検討予定である。また老化制御に機序として、p53SA1がAKTの発現を負に制御していることを発見した。ヒト正常線維芽細胞に酸化ストレスを加えると、AKTのリン酸化は顕著に抑制されたが、この時sipSA1を処理した細胞ではAKTのリン酸化が顕著に亢進した。同時に老化のマーカーであるSA-βgal染色陽性細胞が顕著に減少することから、p53SA1-AKT経路が細胞老化の過程に重要な因子であることを解明した。またp53SA1は細胞外で切断をうける分泌蛋白であることから、培養細胞を用いて分泌型の蛋白質を精製した。
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