研究概要 |
本年度は細胞性粘菌が飢餓状態にさらされた時に起きる集合体形成過程での、細胞内カルシウム動態を効率良く検出するプローブの検討を行った。先ず、既に開発済みのタンパク質性カルシウムセンサーであるカメレオンYC3.60またはYC2.60を発現する細胞性粘菌を作成した。人為的なcAMP刺激によりカルシウム濃度の上昇が見られるかどうかを検討したところ、YC3.60よりもYC2.60の方が高いコントラストでカルシウム動態を観察できることが明らかとなった。YC2.60、YC3.60のカルシウムに対する解離定数はそれぞれ50nM,250nMであることから、細胞性粘菌内でのカルシウム濃度は哺乳類細胞よりも低く保たれていることが示唆された。次にYC2.60を発現する細胞性粘菌を用いて、集合体形成時におけるカルシウム動態の観察を行った。しかしながら、カルシウム濃度の変化は全く見られなかった。これは内在のcAMPによるカルシウム変動は予想以上に小さく、かつカルシウム濃度がYC2.60で捉えることができるレンジよりも低いためであると推測された。そこで、YC2.60よりもさらにカルシウムに対する親和性が高い(解離定数が小さい)カルシウムセンサーの開発を試み結果、15nMというこれまでに報告されているあらゆるカルシウムキレート剤よりも強力にカルシウムと結合する活性を有するカメレオン(YC1.60)を作成することに成功した。YC1.60を発現させた細胞性粘菌は野生型同様に分裂増殖することから内在のカルシウムキレート効果による細胞毒性は無いと考えられる。この細胞株を用いて集合体形成時におけるカルシウム動態の観察を行ったところ、BZ(ベルーゾフ・ジャボチンスキー)反応様のスパイラルおよびターゲットパターンのみならず、時空間的にランダムに発火するカルシウム動態を観察することに成功した。
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