研究概要 |
走化性シグナルの時空間分布を明らかにするため, cAMP刺激に伴う細胞性粘菌の集合塊形成とその過程における細胞内カルシウム濃度の変化に注目した. 多くの真核細胞同様,粘菌細胞のCa2+は静止期では50nM以下に保たれているが, cAMP刺激応答時には30秒以内に最大150nM程度まで上昇する. この微弱なカルシウム応答をイメージングにより検出するため, 遺伝子にコードされたCa2+センサーであるcameleon(YC3. 60)に変異を導入し, 超高感度Ca2+センサーを開発した. Ca2+イオンへの親和性が大幅に向上した指示薬を用いて, 飢餓後6-7時間に同心円波の集合パターンを示す細胞集団のCa2+イメージングを行った. ペースメーカー領域から少なくとも15回以上にわたって安定な集合波が生じており, この間, 周期と伝播速度はそれぞれ4.3分と約80μm/分に安定に保たれた. 同様の結果は細胞内Ca2+濃度の変動パターンからも得られるが, 興味深いことに同心円状の集合パターンとは一致しない一過的なカルシウム濃度の上昇が多数見いだされた. その形は直径が5-10細胞におよぶ真円形で, 発火頻度は集合流あたり21±2.3plse/10minであった. この一過的なCa2+の上昇には1)時間的にも空間的にも分布はランダムで周期性は認められないこと, 2)集合流におけるカルシウム振動とは波形が異なる, という二つの特徴が見いだされた. また確率的なCa2+発火は明確な集合流が生じる前から見いだされ, その頻度は飢餓後3から6時間までは変化しなかったが, 7時間以後には1.4±0.3plse/10minにまでおおきく減少した.
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