霊長類における肩周囲の筋について、上腕骨の筋付着部皮質骨厚と生理的筋断面積(PCSA)との相関関係に関する定量分析を行った。チンパンジーは、ぶらさがりを行動様式に含む霊長類よりは、四足歩行が主な移動手段の霊長類に類似した特徴をもつことが分かった。ただ、三角筋や肩甲下筋は他の霊長類とはやや異なり、PCSAが大きい特徴を示したが、それはナックルウォーキングという特殊な行動様式に関連しているのかもしれない。テナガザルはブラキーエーションという別の特殊な行動様式をもち、骨の筋付着部は受動的な張力を強いられると推測される。これは四足歩行の場合より大きいと考えられ、テナガザルの筋付着部皮質骨が他種に比べ相対的に厚い本研究結果との関連が示された。オマキザルも若干ではあるがぶらさがり行動をすること知られており、筋付着部皮質骨が相対的に厚いという本研究結果と関与している可能性がある。 また、筋が受動的な力を受けやすいならば、その張力に耐えるために、筋実質よりもむしろ筋内部の腱膜の比率が大きいのではないかと考えられる。肩甲下筋・棘上筋・棘下筋を筋実質と腱膜に分解し、各筋重量対する停止部腱膜の重量比を求めた結果、どの筋でもテナガザルとオマキザルで大きくなっていることが分かった。この事実は、テナガザルやオマキザルのPCSAが相対的に小さい本研究結果との関連性が示唆される。 旧世界ザルとリスザルは、筋付着部皮質骨が相対的に薄い結果となった。彼らは四足歩行が主な行動様式であり、筋付着部に張力がかかることは比較的少ないがゆえに筋付着部皮質骨が薄くてもよいと予測される。さらに、旧世界ザルの棘上筋に関しては、他種に比べ比較的薄い筋付着部皮質骨を持ち、一方で大きなPCSA値を示したが、これらは旧世界ザル(特に地上性)の大結節が大きい、つまり付着面積が相対的に大きいことと表裏の関係性が示唆された。
|