感覚ニューロン受容領域の形成・維持を司る分子ネットワークを全ゲノムサイズで理解することを目指し、RNAiノックダウン法を用いてショウジョウバエ・ゲノム上にコードされる全1万3千遺伝子の神経機能を簡便に評価出来る解析システムを確立した。確立したシステムを用いて、樹状突起のパターンや空間配置を制御する脂質代謝関連遺伝子群の探索を行い、イノシトールリン脂質代謝酵素PTENが、末端樹状突起の出芽数と出芽位置の双方を制御していること発見した(Kumagai et.al.投稿中)。さらに、マウス初代培養神経系とスライス培養系を用いて、同定した脂質代謝酵素および脂質代謝産物が、高等動物の神経回路形成に与える薬理効果について検討している。また、細胞外マトリックスのリモデリングなど、気管(血管)と神経の突起形成に共通する細胞・分子メカニズムを多数同定した(Yasmaga et.al.投稿中)。 一方で、従来は癌抑制遺伝子として考えられていたWtsキナーゼが、構築された樹状突起の維持に必須であることを明らかにした(Nature 2006)。さらに、Wtsキナーゼと遺伝的機能相関を示す因子群の探索を行ない、ポリコーム転写制御因子群を同定した(Genes Dev.2007)。一方で、ダウン症候群の関連遺伝子であるDscam(Down's Syndrome-associated Cell Adhesion Molecule)が、樹状突起間の相互認識に関与することを示し、Dscamを介する樹状突起の形成・維持メカニズムの異常が、ダウン症の発病に関連する可能性を示した(Neuron 2007)。
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