研究概要 |
ベンケイソウ科のカランコエをはじめとする数種の多肉植物において, 乾燥ストレスと光の複合的な要因によって葉肉細胞の葉緑体が集合する現象を見出している. 葉緑体の集合体は, 細胞内部に陥入した塊状体として形成される. このような集合体の形成には植物ホルモンの1つであるアブシジン酸が関与していることも明らかになってきており, 多肉植物で見出された葉緑体の集合現象は, 乾燥ストレス応答に密接に関連した形態反応であることが示唆される. この現象はCAMを行う多肉植物においてのみ見出され, 他のC_3, C_4光合成特性を持つ非多肉植物においては見出されていない. 葉緑体の集合現象が光合成代謝に関与して起こるのか, あるいは葉の構造に関与して起こるのかは明らかではない. 本年度の研究では, マツバギク(C_3植物), ポーチュラカ, マツバボタン(C4植物), およびカランコエ, シャコバサボテン(CAM植物)の5種の多肉葉植物を用い, 十分に潅水した条件下(対照区)と潅水を停止した条件下(乾燥ストレス区)で, 葉緑体集合現象における葉構造の特異性を調査した. 乾燥ストレス区において, カランコエ, シャコバサボテンでは葉肉細胞の葉緑体が塊状体を形成するように集合した. ポーチュラカ, マツバボタンでは, 維管束鞘細胞を取り囲むように求心的に葉肉細胞中の葉緑体が集合した. 一方, マツバギクでは細胞内の葉緑体の配置に特異な変化は見出されなかった. これらの結果より, 乾燥ストレスによる葉緑体の動態様式は光合成型によって異なることが示唆された.
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