研究概要 |
本研究の構想は、木材の炭化過程で発生するガスに含まれる炭素を、細胞内腔で固体として沈着させ、高い構造規則性をもつ炭素材料を創製するものである。木材細胞が、その際に不可欠な装置として働く、即ち1)原料ガスの発生源として、2)内腔に炭素ガスを蓄え過飽和状態に至らしめ沈着させるための、マイクロリアクタとして、二重の役割を担うのではないかと考えた。 具体的には、1)木材の炭化過程におけるガス発生のプロセス、2)マイクロリアクタとしての機能発現に求められる細胞の特性、の2つを明らかにすることを目的とした。最終的には、1)炭素を沈着させる基材の種類、2)ガス化触媒の種類、3)マイクロリアクタ機能に合致した処理温度プログラム、の3者を組み合わせることで、発生ガスの成分・量・沈着過程を制御して、気相成長物質の炭素構造・形状・サイズ・収率を自在に設計できるようになることをめざす。 本年度は引き続き、細胞構造がマイクロリアクタとしてどのように機能しているのかを明らかにした。付随した応用展開として,原料に粉炭を用いたところ、容器としての細胞構造を破壊することは一見逆説的だが、細胞外部に露出したウイスカが得られた。粉炭由来のウイスカには従来法の10倍近いサイズのものが含まれてサイズのばらつきが大きく、粉炭貯留した原料ガスの濃度の不均一さが示された。つまり細胞構造はガス濃度を均一にする役割を持つ。粉炭由来のウイスカは、(1)サイズが大きい、(2)細胞壁に囲まれておらず露出している、点で、測定に有利であった。ウイスカ偏光顕微鏡観察から、表面にウイスカ軸に垂直な方向の周期構造が見出された。電子顕微鏡観察と合わせ、ウイスカ表面の、カーボンナノチューブを巻きつけたような構造(Nanoterminated surface stracture;NTSS)が明らかとなった。NTSSの溝を利用したガス吸着、エピタクシアル成長による表面修飾など、NTSSを利用した表面加工への展開の可能性が考えられる。
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