研究概要 |
4月,5月,6月に親潮域において春季ブルームを利用して産卵を行うEucalanus bungiiの生物量,分布深度,産卵速度と環境要因との関連についての集中観測を行った。現場での卵生産の開始は表層のクロロフィル量に依存しており,本種の再生産開始のタイミングが春季ブルームに依存していることが示された。産卵開始にはまた表層出現後,体内に蓄積する油球(脂質)のサイズ(直径)が体長3.8%以上に達する必要があることが,飼育実験および現場試料から示され,表層生産物を利用して産卵する本種においても,脂質の体内蓄積が重要であることが示された。 昨年までの結果同様,現場での卵生産は原則として現場の植物プランクトン量(クロロフィル)に依存していたが,現場での卵艀化率は0〜80%の間で大きく変動した。この変動は産出される卵の脂肪酸組成に左右されており,不足する脂肪酸の種類によって,正常な卵発生のいくつかの過程が妨げられることが明らかになった。とりわけ,十分量の細胞膜を構成するリン脂質や,発生を促進するトリアシルグリセロール等は正常な卵発生に不可欠であると考えられ,これら脂肪酸の環境中からの取り込み(摂餌)や母体内での代謝過程にっいては,さらに検討を加える必要がある。 また,夏季には沿岸性種を用いて,飢餓状態(餌料欠乏)が幼体生残や加入に与える影響にっいて,室内実験を行った。餌料が比較的豊富な沿岸域においては,半日〜1日程度の餌不足が生残に大きな影響を与える可能性が示された。
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