本研究は、遺伝子組換え作物・食品(GMO)をめぐる「科学技術と社会」の問題に、教育研究、科学技術政策、市民社会運動の各レベルで先進的に取り組んでいる欧州諸国を中心に、とくに「学際的な専門知」の制度化という視点からの事例調査を行うことを目的としている。第1年度にあたる平成18年度は、英国とオランダを中心に、GMOを含む植物ゲノミクスの倫理的・法的・社会経済的側面(ELSA)の研究に取り組んでいる研究機関・グループへのインタビューを実施し、あわせて欧州農業食料倫理学会(EurSafe 2006)大会に参加することを通じて、当該領域の研究動向ならびに政策動向を把握することに重点を置いた。その一環として、教育研究プログラムに「自然科学と社会科学の統合」を掲げるオランダ・ワーヘニンゲン大学の討議資料を英語に翻訳する事業を含めていたが、諸般の事情から資料入手と翻訳作業が延期となり、一部助成金を繰越せざるをえなかった。平成19年8月に国際学会参加のためワーヘニンゲン大学を訪問する機会があったので、関連資料を入手するとともに、当該問題に関連するテーマで論文発表した研究者と意見交換を行った。また、オランダ人研究者に関連資料を英訳してもらうことができた。バイオテクノロジーをはじめとする科学技術は、それ自体が社会的選択過程の産物であり、したがって、その評価も生化学的な安全性や生態学的な環境影響だけでなく、社会経済的・倫理的・法的な諸側面からも同時になされなければならない。今日の農業・食料・農村をとりまく社会経済的・政治的な環境を踏まえ、公正と公平と持続性にも配慮したバイオテクノロジーの再構成可能性を展望し、そうした研究開発を促すためにも、ELSAへの問題意識を獲得するための教育研究活動が不可欠である。ワーヘニンゲン大学で実践されている学際的な教育研究プログラムは、最近いくつかの修正を余儀なくされているが、科学技術の社会的合理性を豊かにするためには、なお有効なアプローチであると思われる。
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