本研究の目的は、地域環境におけるコロイド成分の凝集分散ダイナミックスの解明に必要となる解析および実験手法の確立を目指すことである。この目的のため、輸送条件の明確な条件下において、十分にキャラクタリゼーションされた標準コロイドについて凝集実験を行い、実験結果を拡散電気二重層理論によって解析した。本年度の研究により得られた知見は以下の通りである。 1.異符号に帯電したポリスチレンアミジンラテックス粒子とシリカ粒子とのブラウン凝集速度を、単純な塩である塩化カリウム溶液の濃度とpHの関数として測定した。測定結果から、異符号帯電粒子間の凝集速度は、pH、すなわち表面電位の変化に影響を受けないこと、凝集速度は塩濃度の低下とともに増加することがわかった。さらに、測定により得られた粒子間の安定度比を、DLVO理論によって計算された安定度比と比較したところ、両者は定量的に一致した。静電反発が支配的である系とは対照的に、静電引力が卓越する系においては、DLVO理論は低い塩濃度でも定量的に妥当な計算結果を与えることがわかった。 2.剪断流場における異符号帯電粒子問の凝集速度を軌道理論により計算した。計算された捕捉効率は塩濃度が低いほど高く、塩濃度が上がるにつれて電気二重層力のない場合の値に収束した。また、低塩濃度においては表面電位の効果が顕著であるものの、1mM程度の塩濃度以上では表面電位の効果はわずかであった。さらに塩濃度の影響がなくなる限界の濃度は剪断速度の増加とともに増加することが明らかとなった。
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