研究概要 |
本年度は,マウス卵子の排卵過程において卵丘細胞に特異的に発現する遺伝子を,マイクロアレイ法により網羅的に検出した.その結果,約3000種類の遺伝子発現が,排卵刺激ホルモンであるhCG処理により,増加,あるいは減少していることが明らかとなった.それら遺伝子は,これまで知られていたプロスタグランジンの合成に関与する遺伝子群,プロジェステロンの合成に関与する遺伝子群,ヒアルロン酸合成やその保持に関与する遺伝子群とともに,EGF like factorとその修飾酵素(Amphiregulin, Epiregulin, Adam17など),自然免疫にかかわるToll-like receptorとその下流シグナル経路にかかわるMyd88, Irf3や,サイトカイン,ケモカイン類なども発現していた.EGF like factorの発現は,プロジェステロン受容体遺伝子欠損マウスやプロスタグランジン合成酵素遺伝子欠損マウスで発現が有意に減少し,卵丘細胞におけるプロジェステロン合成やヒアルロンロン酸合成に必須であることも明らかとなった.自然免疫にかかわる因子に関しては,卵丘細胞に発現するToll like receptorを合成リガンドであるLPSで刺激した結果,細胞内のシグナル伝達経路の活性化と標的遺伝子の発現が誘起された.さらに食作用にかかわるスカベンジャ受容体も発現し,その作用により卵丘細胞は異物を貪食することも初めて明らかとした.これらの結果から,卵丘細胞は,非常に多様性を有する細胞であり,本年度に網羅的に検出した遺伝子の発現機構,その役割の詳細を検討することにより,卵子排卵機構の解明と,卵子体外培養の環境を最適化することにつながると期待された.
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