DNAマイクロアレイ解析および組織発現解析により、味蕾細胞の分化制御に関連する遺伝子を見出した。発現細胞種および発現時期の解析から、それぞれの細胞種に、分化制御時期が異なる複数の因子を見出した。このうち、甘味細胞および苦味細胞に発現している遺伝子Aについて、ノックアウト(KO)マウスを作製した。この遺伝子AのKOマウスの味蕾の形態は、野生型マウスと較べて際だった特徴を示さないが、甘味受容体、苦味受容体、およびこれらの下流で機能する細胞内情報伝達因子の遺伝子の発現が抑制されていた。行動学的な解析を行った結果、このKOマウスは、野生型マウスと同様に酸味刺激や高濃度の塩味刺激に対する忌避行動を示したが、甘味物質に対する嗜好行動および苦味物質に対する忌避行動は野生型マウスに較べて減退していた。これらのことから、ここで破壊した遺伝子Aの産物は、味細胞機能を支える遺伝子の発現制御に深く関わっており、甘味細胞および苦味細胞の分化に必須の因子であることが明らかとなった。また、このKOマウスで発現量が減少している遺伝子が多いことから、遺伝子Aの産物は味細胞分化のかなり早期から分化制御に関与していることが示唆された。一方、神経細胞の分化に重要なAcllが酸味受容細胞特異的に発現すること、Hes6の発現の一部はAcllを重なることも見出した。発現時期を解析したところ、これらが階層的に機能している可能性が示唆された。本研究により、味細胞の分化制御機構の一端が明らかになり、詳細な解析を行う新たな分子知見が取得された。
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