胃粘膜に持続感染を引き起こすヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)は、胃炎、消化性潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃ガンの原因菌として多くの研究が行われている。本研究では、ピロリ菌が引き起こす胃炎症惹起とガン化促進に至るメカニズムの解明を目指して、本菌と感染宿主との相互作用に焦点を絞り、「マクロ的解析」、「上皮細胞を中心とした解析」、および、「マクロファージ(Mφ)・樹状細胞(DC)を中心とした解析」、の三つの視点を軸とした研究を遂行している。 「マクロ的解析」:スナネズミに経口投与によって感染が成立することが報告されている数種のピロリ菌株を用いて、in vivoでのスナネズミ感染実験系を確立した。さらに、これらスナネズミ感染株のGFP蛍光標識株を樹立した。 「上皮細胞を中心とした解析」:In vitroにおいて、CagAを持つピロリ菌が感染した上皮細胞は、ミトコンドリア経路アポトーシスに対して耐性能を有することが明らかとなった。この分子メカニズムを解析した結果、CagAの細胞内移行によって誘導されるMEK/ERK経路の活性化に伴い、Bcl2ファミリータンパク質の一つであるMCL1タンパク質の発現が上昇することが、CagAによるアポトーシス抑制作用に寄与していることが明らかとなった。 「Mφ・DCを中心とした解析」:ピロリ菌感染によるサイトカイン産生を精査したところ、ピロリ菌感染による炎症惹起に重要であることが知られている炎症性サイトカインIL-8/MIP2は、上皮細胞よりもMφからより効率的に産生誘導されることが明らかとなった。ピロリ菌が感染したMφを用いて、各種サイトカインの産生を経時的に観察したところ、感染初期に、IV型分泌装置依存的にIL-1の産生が増加し、その後IL-8/MIP2産生が増加することが判明した。また、この感染初期のIL-1産生増加は、Mφによるピロリ菌菌体の貧食とは無関係ではあるが、IV型分泌装置に依存的であることが判明した。
|