研究概要 |
日本での蔓延が危惧されているエイズには根治療法が存在しない。近年エイズ予防ワクチン臨床治験の失敗が報告され、早急に実現可能なエイズ対策として新たな治療標的をもつ抗ウイルス剤の開発とウイルス病原性の理解が求められている。これにはウイルス複製の基本原理と宿主-ウイルス相互作用の解析が必須である。我々はこれまでに同定した複数の宿主因子に特に焦点を当て詳細な宿主-ウイルス相互作用解析を行うと同時に、新規HIV-1複製制御因子の発見を試み、独創的なエイズ対策法の開発に資する事を目的にした。 (1)ウイルスレセプターCXCR4の細胞表面発現レベルを減少させる遺伝子としてCD63を同定しその作用機序を明らかにした。 (2)ウイルス抵抗性を示すウサギ細胞RK13由来cDNAからその表現型の責任遺伝子としてHSP40B6を同定した。その作用機序はHSP40B6のN末端JドメインがHSP70と機能的な相互作用を通じてウイルス産生を抑止することが判明した。 (3)ヒト細胞由来cDNAライブラリーからHIV-1感染抵抗性に寄与する遺伝子として新たにARHGDIB、RIPK2、CD5を同定した。 (4)Arp2/3複合体は細胞骨格の重要な構成要素の一つであるり、膜輸送を制御するESCRT複合体関連因子群と相互作用してウイルス産生の最終過程を促進する。この因子群の中でALG-2がlate domain非依存的なウイルス出芽に関与する事を明らかにした。 (5)Tat依存的LTR転写にはP-TEFb複合体が必須である。P-TEFb複合体の制御因子として新たにBrd4C末端ドメインを同定した。P-TEFb複合体制御因子HEXIM1, cyclin K, Brd4 C末端ドメインを解析した結果、cyclin T1を含むP-TEFb複合体の抑制は特異的にHIV-1複製阻害を可能にする可能性が強く示唆された。Cycin T1のBrd4相互作用部位が新たなエイズ治療薬の創薬分子標的であることが示唆された。
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