免疫抑制薬の体内動態や効果・副作用発現に関わる分子群の臨床薬理学的研究を進め、カルシニューリン阻害薬タクロリムスとステロイド薬の併用による薬物感受性の変動機序解明を目指した。その結果、両薬物の併用、特に急性拒絶反応に対する措置として実施されるステロイド大量療法による移植肝薬物代謝酵素の発現誘導によって、タクロリムスの代謝プロファイルに変化が生じ、一般的に徽章代謝物とされる31-0-脱メチル体(M II)の産生充進に繋がることが見出された。本代謝物はカルシニューリン阻害能に乏しいモノのリンパ球凝集活性を抑制するなど未知の薬理作用を有していることから、患者の経過にとって必ずしも好ましいとは言えない。さらに、日本人に特徴的な薬物代謝酵素CYP3A5の*3多型についても同時に解析し、タクロリムスの代謝を中心とした薬物相互作用の有無は代謝酵素の多型並びに薬物トランスポータの発現レベル、さらには免疫抑制剤の標的細胞である末梢血白血球中におけるP-糖タンパク質発現レベルが最終的な、感受性の個人差に少なくとも一部関わっていることを初めて明らかにした。これらの研究は、臓器移植患者における個別化免疫抑制療法を進める上で重要な基礎及び臨床情報であると考える。
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