基礎的研究に有用な副甲状腺細胞のcell lineなどがないため、遺伝子導入を用いて標的遺伝子または遺伝子産物の過剰発現や発現の抑制による副甲状腺細胞の変化を検討する研究方法を確立するため、アデノウイルスをベクターとした遺伝子導入システムを開発した。 さまざまな濃度のアデノウイルスを副甲状腺内に直接注入し、経時的に副甲状腺を摘出し、副甲状腺細胞におけるアデノウイルスの感染状況を検討することで、至適ウイルス濃度と効果を検討するための至適なタイミングを明らかにした。これらの結果をもとに、vitamin D receptor(VDR)およびCa-sensing receptor (CaSR)のcDNAを導入したアデノウイルスを副甲状腺細胞に感染させ、これらの遺伝子産物の副甲状腺細胞における発現量と機能の変化を検討した。なお、コントロールとしてLacZを導入したアデノウイルスを用いた。免疫組織化学的手法により、これらのウイルスが感染した副甲状腺では、これらの発現も著明に増加していることが確認された。また、前者ではビタミンDに、後者ではCaに対する副甲状腺の感受性の改善もみられ、導入した標的遺伝子または遺伝子産物の機能も確認された。さらに、これらの遺伝子を導入後、それぞれビタミンDまたはCaの投与後に副甲状腺細胞のアポトーシス誘導の変化について、TUNEL染色、DNA電気泳動、電子顕微鏡による形態学的評価により検討した。これらの治療を受けた副甲状腺では、TUNEL陽性副甲状腺細胞数が有意に高値であり、DNA電気泳動および電子顕微鏡的に副甲状腺細胞のapoptosis誘導が確認された。こうした変化はビタミンDやCaの投与量に依存して増加していた。 本研究により、遺伝子導入を用いて標的遺伝子または遺伝子産物の過剰発現や発現の抑制による副甲状腺細胞の変化を検討する研究方法を確立することができた。さらに副甲状腺細胞の機能の調節に重要な役割を持つビタミンDやCaとアポトーシスの関係も明らかにすることができた。
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