研究概要 |
これまでの研究から,成体骨髄内には骨芽細胞性ニッチと血管性ニッチの2つのニッチが存在することが明らかとなってきている。また我々はこれまでの研究で、静止期造血幹細胞は骨梁表面で骨芽細胞と強く接着して存在すること、さらに、幼若骨髄(2週齢)では静止期造血幹細胞の頻度が非常に少なく,成体(8週齢)になるにつれて細胞周期の静止した集団が出現することを見いだしている。これらのことから、幼若期および成体骨髄では幹細胞のニッチ制御機構が異なるという仮説を持った。 そこで本年度は、造血幹細胞と骨芽細胞で発現する接着分子N-cadherinについて、成体骨髄のニッチ構築における機能の解析をおこなった。 まず、造血幹細胞におけるカドヘリン分子の発現を2週齢および8週齢で検討したところ、2週齢ではVE-cadherinの発現が高く、N-cadherinがほとんど発現していないのに対し,8週齢では逆にN-cadherinの発現が上昇し、VE-cadherinの発現が低下することが明らかとなった。VE-cadherinとN-cadherinはそれぞれ、造血幹細胞と血管内皮細胞、幹細胞と骨芽細胞との接着に関わっていると考えられる。さらに、N-cadherinを造血幹細胞に過剰発現させると、β-cateninの核移行の抑制および細胞周期制御因子の発現上昇により、造血幹細胞の細胞周期が静止期に維持されることがわかった。 以上の結果から、幼若期には造血幹細胞は血管性ニッチと相互作用することで、増殖・分化していると考えられた。また成体になるにつれて幹細胞のニッチ細胞が血管から骨芽細胞に移行し、骨芽細胞ニッチと造血幹細胞との相互作用により、造血幹細胞は細胞周期の静止状態を獲得し、さらに、静止期を維持していることが考えられた
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