研究概要 |
「皮膚が場所により違うのは,真皮線維芽細胞という間葉系由来細胞が,最外層に存在する表皮細胞やメラノサイトに影響を及ぼすから」という独創的な立場・観点から多数の研究成果を揚げた。私は3年前にStanford大学Howard Y.Changから招聘されたので,この独創的な概念の講演をした。本年度彼らのグループは,NatureやCellに同様の成果を公表し,「今までジャンクとされていたNon-codingRNAが皮膚真皮線維芽細胞において,その場にふさわしい組織に分化・形質を維持するのに重要な働きをしていること」を証明した。私も臨床論文(特に難治性皮膚潰瘍や皮膚癌に関する論文で,研究課題の再生医療を臨床応用するもの)を公表する傍ら,同様の基礎研究を地道に行ってきた。「ヒト成人においても,上皮間葉系相互作用(真皮線維芽細胞がその上にある上皮系細胞に与える作用)により部位特異性(皮膚のさまざまな部位で性質が具なること)を決定付けていること」を実証してきた。具体的には,メラノサイトに焦点を向け本年度のJ Biol Chemの総説特集号のカバーを飾った。またメラノサイト(J Invest DermatolというNature Publishing Groupの皮膚科領域で一番Impact factorの高い雑誌)および表皮細胞(FASEB J)に及ぼすDickkopf 1 (DKK1)の影響をマイクロアレイによる解析を含めた分子生物学的手法を用いて更に詳しく調べ、ともにFirst及びCorrespondingで論文発表した。また皮膚癌発症にも部位特異性があり,露光部に多く紫外線の影響を多分に受けているものが多い。人種間の皮膚癌発生頻度の差を比較検討することから,新しい皮膚癌発症機序を提唱し続けた。このような一連のヒト皮膚に関する色調を司る因子(紫外線や部位特異的なサイトカインの発現様式)についての総説執筆にも参加した。また最後に部位特異性を応用した難治性潰瘍治療法開発から派生した研究が実際の臨床でも活かされ,数々の潰瘍治療に役立った。更に多数の研究成果を来年度も揚げる事ができればと努力している。(782字)
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