統合失調症の脆弱性遺伝子は、統合失調症という疾患そのものの原因ではなく、中間表現型と呼ばれている統合失調症で障害が認められている高次認知機能や脳画像と強く関連し、その結果として統合失調症と関連すると考えられている。よって、統合失調症の中間表現型である高次認知機能や脳画像とディスバインジン遺伝子との関連を明らかにすることにより、その病態に迫ることができると考えられる。本年度は昨年度までに収集した300例の中間表現型とゲノムに加え、新たに統合失調症300例と健常者100例のゲノムと中間表現型のデータを収集した。中間表現型としては、前頭葉遂行機能を反映するウィスコンシンカードソーティングテスト、タッチパネルを用いた視空間ワーキングメモリーの指標となるAdvanced Trail Making Test、WAIS-R成人知能検査、WMS-R記憶検査、簡便な知能検査であるNational Adult Reading Testの日本語版であるJapanese Adult Reading Test、性格傾向検査(TCI : Temparament and Character Inventory、SPQ:分裂病型人格障害評価尺度など)、プレパルス抑制テスト、そしてMRI画像(3次元構造画像、拡散テンソル画像:白質の神経線維の走行を反映すると考えられている)などを行った。その中で、知能や記憶とディスバインジンの遺伝子多型との関連を検討した。統合失調症に対して保護的なディスバインジン遺伝子のハプロタイプを持たない健常者は、保護的なハプロタイプを持つ健常者と比較して、WMS-R記憶検査にて測定した記憶機能が有意に低かった。この結果は、統合失調症のリスクとなるディスバインジン遺伝子の中間表現型は記憶機能であることを示唆する。
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