研究概要 |
統合失調症の脆弱性遺伝子は、統合失調症という疾患そのものの原因ではなく、中間表現型と呼ばれている統合失調症で障害が認められている高次認知機能や脳画像と強く関連し、その結果として統合失調症と関連すると考えられている。よって、統合失調症の中間表現型である高次認知機能や脳画像とディスバインジン遺伝子との関連を明らかにすることにより、その病態に迫ることができると考えられる。本年度は昨年度までに収集した850例の中間表現型とゲノムに加え、新たに統合失調症100例と健常者50例のゲノムと中間表現型のデータを収集した。この中間表現型のうち、WAIS-R成人知能検査とWMS-R記憶検査においてディスバインジンの遺伝子多型との関連を検討した。統合失調症か対して保護的なディスバインジン遺伝子のハプロタイプを持たない健常者は、保護的なハプロタイプを持つ健常者と比較して、WMS-R記憶検査にて測定した言語性記憶、視覚性記憶、そして遅延再生のスコアが有意に低かった。同じような傾向が、統計学的には有意ではないものの統合失調症患者においても認められた。しかし、この統合失調症の保護的ハプロタイプは言語性IQ, 動作性IQそしてIQとも関連せず、また、WAIS-R知能検査の下位検査においても関連しなかった。この結果は、世界生物学的精神医学会の機関誌であるThe World Journal of Biological Psychiatryに受理された。まだ、予備的ではあるが、この保護的なハプロタイプは、他の中間表現型である脳構造画像やプレパルス抑制テストとは関連しないという結果を得た。これらの結果は、統合失調症のリスクとなるディスバインジン遺伝子の中間表現型は記憶機能であり、統合失調症の記憶障害に関与する遺伝子であることを示唆した。
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