研究概要 |
われわれは朦癌のDNAメチレーション異常に注目し、ゲノム綱羅的スクリーニング法を応用することにより、膵癌における新たなメチレーションターゲットを同定することを目的として研究を進めてきた。 本年度はマイクロアレイによる膵癌メチル化遺伝子のスクリーニングをおこない、多数の侯補遺伝子のリストを得た。この侯補遺伝子群について実際の膵癌細胞でのメチル化状態を調査し、現在までに7個の新規メチル化ターゲットを同定している (Sato N, et al.,Gastroenterology 2006)。このうち最も興味深い遺伝子として、脳発生時における神経細胞の遊走に深く関与する遺伝子reelin(RELN)についてさらに詳細に検討を行った。本遺伝子は購癌の約70%で異常メチル化による発現低下をきたしていた。また、reelinの発現が残っている膵癌細胞についてsiRNAを用いてその発現をノックダウンしたところ、約30倍もの遊走能(浸潤能)の増加をみた。すなわち、reelinのメチル化に伴う不活性化は、膵癌の悪性度に深く関与している可能性が示された(Sato N, et a1.,Gastroenterology 2006)。 また、リストアップされた侯補遺伝子のうち、G2/M期チェックポイントのひとつであるReprimoについて詳細に検討を行った。Reprimoの異常メチル化は購癌の発生過程で比較的晩期(PanIN-3)からみられ、癌への進展に伴いその頻度が増加することが分かった。また、Repriumのメチル化は膵癌の遺伝子不安定性と正の相関を示し、さらにメチル化陽性例は陰性例に比べ有意に予後不良であった(Sato N, et a1.,Cancer 2006)。すなわち、Reprimoの異常メチル化は膵癌の生物学的悪性度を反映し、予後因子として臨床応用可能であることが示唆された。
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