本研究の目的は上皮間葉転換現象(EMT)の視点から2種の細胞膜型ペプチド分解酵素(CD13/CD26)に焦点をあて卵巣癌の腹膜播種を抑制と薬剤感受性増強のメカニズムを探求することである。本年度は1)タキソール感受性におけるCD26-CD13発現バランスによる変化とCD13を分子ターゲットとしたタキソール感受性の増強効果対して以下の研究成果を得た。1)タキソールの感受性が高CD26低CD13の細胞では高く、逆に低CD26高CD13では低いことを見いだした。また低CD26高CD13細胞にCD26の遺伝子導入することによってタキソール感受性は亢進し、無血清培地下でもアポトーシスの発現増強を認めた。2)逆に卵巣癌におけるCD13の発現は高浸潤性とタキソール耐性とリンクしており、阻害剤であるbestatinやsiRNAによってCD13を抑制するとタキソール耐性の解除と腹膜転移能の減弱が見られ動物実験では予後の改善に寄与した。3)さらに高CD26低CD13であるNOS-2細胞のタキソール獲得耐性株を樹立したところCD26発現は減弱しCD13発現は亢進した。この細胞においてbestatinの添加によってCD13活性を抑制すると種々のアポトーシスシグナルの増強と共にタキソール感受性が回復した。さらに今年度は2)基質制御の観点からCD26に対しては酵素的標的であるSDF-1αとその特異的受容体であるCXCR4の果たす卵巣癌細胞の腹膜進展作用についての基礎的研究、3)腹膜播種における腫瘍細胞の受け手である腹膜中皮細胞のCD26-CD13発現バランスの変化を上皮間葉転換(EMT)の観点からの検討、3)CD13発現ともリンクするEMT誘導転写因子TWISTに着目して、卵巣癌におけるTWISTの発現がpoor prognosisへの関連性などに対する数々の研究成果を得た。
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