糖鎖を介した生理活性物質の機能制御による新たな疾患治療を展開する目的として、生理活性物質と親和性の高い糖鎖であるヘパラン硫酸に注目し、研究をおこなった。第1に、網膜血管新生を抑制する薬剤としての役割を検討するために、高濃度酸素負荷による虚血網膜血管新生マウスモデルを作成し、ヘパラン硫酸の類似体であるヘパリンをマウスに投与したところ、著しく網膜血管形成及び血管新生が抑制された。血管内皮細胞を培養し、FGFまたはVEGF165またはVEGF121を添加すると、細胞増殖は促進されるが、ヘパリンをさらに添加したところ、FGFとVEGF165を添加した細胞では、増殖は阻害されたが、VEGF121を添加した細胞では変化がなかった。ヘパラン硫酸は、FGFとVEGF165には結合したが、VEGF121には結合しなかった。一方、ヘパラナーゼで血管内皮細胞表面のヘパラン硫酸を分解すると、FGFとVEGF165による細胞増殖が阻害された。以上のことから、内在性のヘパラン硫酸は、血管形成を促進し、FGFとVEGF165を介した作用であることが示唆された。第2に、発達緑内障の隅角発生異常に関連する分子群を修飾する因子として、ヘパラン硫酸の役割を解析するために、ヘパラン硫酸合成に必須の酵素EXT1を欠損させた遺伝子改変マウスを作成した。そのマウスでは、角膜菲薄化、隅角形成異常、虹彩欠損を認め、Peters奇形に酷似した表現型を呈した。その変異マウスでは、BMPとTGFβの下流シグナル分子の活性が低下しており、TGFβ2とBMP4はヘパリンと結合能があることが確認され、しかも、この2分子のノックアウトマウスは、EXT1変異マウスと酷似した表現型を有していた。
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