研究概要 |
感染性心内膜炎の診断のもと摘出された心臓弁とその同一人物の口腔よりデンタルプラーク(歯垢)を採取した.まず,これらのサンプルからDNAを抽出しPCR法を用いて,組織中に含まれる菌種を特定した.その結果,急性心内膜炎の症例からは,口腔レンサ球菌は検出されずブドウ球菌が検出された.一方,亜急性心内膜炎のほとんどの症例から口腔レンサ球菌が検出された.そのうちS.mutansが大部分を占め,S.sanguinisやA.actinomycetemcomitansも検出された.また,デンタルプラークからは,多くの口腔レンサ球菌種および歯周病原性細菌種が検出された. これまでに,感染性心内膜炎患者血液より分離したS.mutansの表層構造物の詳細な分析から,血清型特異多糖抗原の構造が通常の株と異なる新規血清型k型を定義した.また,その遺伝子配列の性状を利用して,PCR法にてk型株の存在を簡易同定できるシステムを構築した.この方法を用いて,S.mutans陽性サンプルにおけるk型株の存在を検討した.すると,感染性心内膜炎患者から摘出した心臓弁では,k型のS.mutansが高頻度に検出された.その検出率は,心内膜炎以外の診断で摘出された心臓弁よりも有意に高い値を示した.さらに,心内膜炎患者のデンタルプラークでは,それ以外の患者のデンタルプラークよりも高頻度でk型のS.mutansが認められた. k型のS.mutansでは,血清型を特定する多糖抗原以外にも,他の主要な表層抗原に変異が生じていることが明らかになった.k型のS.mutansは,血管内皮への付着率も高い傾向を示すことも分かり,感染性心内膜炎発症に関わる病原性の高い菌株である可能性が示唆された.
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