研究概要 |
2004-2007年にかけて行われた感染性心内膜炎(Infective endocarditis ; IE)症例に対する心臓弁置換術において,患者の同意の得られた12症例の摘出弁検体から細菌DNAを抽出し口腔細菌の存在を分子生物学的手法によって検討した.すると,S.mutansが高頻度で検出されたため,その血清型の分析を行った.その結果,多くの検体中に,血清型k型のS.mutansのDNAを含んでいることが明らかになった.血清型k型は,IE患者から分離した菌株において従来のclelf型に分類されない菌株の血清型特異多糖抗原の分析を行い,新規血清型として定義したものである.口腔分離株におけるk型の頻度は5%以下であるため,感染弁検体における高い検出率は,k型株のIEへの病原性の関与を示唆していると考えられる. 本研究では、感染弁検体より多くの口腔細菌の分離を試みた,IE症例から分離したS.mutants菌株の性状を分析した結果,血液分離株において,口腔分離株ではあまり認められない主要な表層抗原の変異が認められる傾向にあった.また,ある症例の感染弁から分離されたS.mutants菌株の性状の詳細な分析を行うと,主要なタンパク抗原であるグルコシルトランスフェラーゼの発現を欠失していることが明らかになった.また,このタンパク抗原の欠失によって,抗原性の低下が生じ,白血球による貪食作用に抵抗性を示すことが分かった.さらに,分子生物学的手法による分析から,このような菌株がこの患者の口腔内に微量ながらも存在していたことが示唆された。 IEの発症頻度は極めて低いことから,多くの症例を分析するのには時間がかかるが,今後さらに多くの症例から菌株を分離することや細菌DNAを抽出し分析すうことで,これまで明らかにされていない知見を得たいと考えている.
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