本研究期間中に、新規核小体タンパク質NMLが細胞内エネルギーセンサーとして働くSIRT1というタンパク質と複合体を形成することを新たに見出した。SIRT1は脱アセチル化酵素として知られており、NML/SIRT1複合体は標的タンパク質をメチル化・脱アセチル化することによって、機能を発揮することが予想された。検討の結果、NML/SIRT1複合体は核小体に存在するリボソーム遺伝子領域のヒストンの脱アセチル化を誘導することが明らかとなった。 一方、NML/SIRT1複合体と癌細胞の転移・増殖との関係を明らかにするため、NML発現量の異なる細胞株を用いて、DNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、癌の転移・増殖に関わる遺伝子群の発現をNMLが制御していることが明らかとなった。そこで、NML/SIRT1複合体による癌の転移・増殖に関わる遺伝子群の制御機構の解析と進行に及ぼす影響を明らかにするために、DNAマイクロアレイ解析によって発現に変化を認めた遺伝子について、実際にNML/SIRT1複合体によって発現が制御されていることを確認した。さらに、それらの遺伝子領域にNML/SIRT1複合体が結合していることをクロマチン免疫沈降法によって明らかにした。それら癌関連遺伝子では、NML/SIRT1によってヒストンの脱アセチル化が誘導され、発現が抑制されていることが判明した。しかしながら、NML/SIRT1が結合しているにもかかわらず、発現が上昇している遺伝子も存在し、他の制御機構の存在が示唆された。 以上の結果から、NML/SIRT1複合体は細胞内エネルギー代謝を制御するだけでなく、癌関連遺伝子の発現を制御して癌の転移・増殖を調整している可能性が示唆された。
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