本研究の目的は新規Akt基質「Girdin」およびそのファミリー分子群(「Daple」および「FLJ00354」)の発生における機能を解明するとともに、悪性腫瘍の進展・浸潤における意義を様々な組織型由来の腫瘍細胞を用いて個体レベルで解明することにある。今年度は以下の実験を行った。 1. GirdinおよびDapleの遺伝子改変マウスの作製 昨年度までにGirdinのノックアウトマウスを作製し、初代培養の血管内皮細胞およびマウスの網膜検体を用いた解析により、生後の血管新生が障害されていることを明らかにした。今年度は同ノックアウトマウスの神経系、特に海馬歯状回と嗅球の表現系に着目して解析した(論文投稿中)。一方Dapleのノックアウトマウスを作製したところ、生後に体重減少をきたすことを明らかにした。 2. 腫瘍細胞の浸潤・転移におけるGirdinの役割の検討 昨年度までにGirdinの機能が悪性腫瘍の浸潤能および転移能に関与していることをin vitroおよびin vivoの解析系を用いて証明した。今年度はその分子機構を明らかにするために腫瘍細胞内におけるGirdinの結合分子を複数同定した。現在その一つである細胞の極性決定因子Par3について解析を進めている。 3. 神経細胞の分化におけるGirdinの役割の検討 上述したとおり、Girdinノックアウトマウスでは海馬における神経細胞の新生と分化が障害されている。今年度は、その分子機構について検討を進め、統合失調症の脆弱性因子として知られているDISC1とGiridnが神経細胞内で結合していることを明らかにした。海馬神経の分散培養では、内因性のDISC1をRNA干渉でノックダウンすると軸索先端へのGirdinの局在が障害されることを示した。
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