研究概要 |
1.新しい特異値分解アルゴリズムの開発 既存の特異値分解法では,大規模な行列を扱えない.そこで,新たに可積分系の考えを取り入れて特異値分析アルゴリズムを開発している.本年度は,この一環として,特異値分解ライブラリI-SVDを開発し,その性能を比較調査した.上2重対角行列を対象とする実験を行った結果,計算時間が,従来の方法(QR法,DC法)では0(m^3)必要であるのに対して,新しいアルゴリズムでは0(m^2)であることが確認された.また,特異値分解された行列の直交性と真値に対する誤差を調べたところ,直行性は若干劣るものの,真値に対する誤差が小さいことがわかった. この研究を行う過程において,QR法は,直交性を重視するあまりに,与えられた行列によっては,真値に対する誤差が非常に悪く,本来得られるべき特異値分解とは違う結果が得られる場合があることもわかった. 2.分割統治法の改良 より大規模な行列を特異値分解するためには,並列化するべきである.しかし,I-SVDアルゴリズムで採用している特異値計算法mdLVsはデータの依存関係が強く,並列化に向かない.そこで,この問題を解決するために,分割統治法で利用されている特異値計算の部分のみを取り出し,その後,I-SVD法の特異ベクトル計算を行うように改良した. 3.ツイスト分解を用いた特異ベクトル計算の改良 新しく開発した特異値分解アルゴリズムI-SVDの特異ベクトル計算において,ツイスト分解が利用されている.このツイスト分解は,各特異ベクトルを独立に計算するため,既存の方法と比べ,直交性が悪い.この問題を解決するために,シフトとスケールを導入した.シフトによって,最小特異値が0に近づくように移動させる.スケールによって,密集した特異値を可能な限り分散させる.これらによって,従来にI-SVD法よりも1桁精度を向上することに成功した.
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