本研究プロジェクト提案時においては、立体視における眼の疲労や違和感の主原因とされる輻輳調節矛盾を解消する方法として、多視点方式とエッジのボリューム方式を組み合わせた立体ディスプレイと、シリンダーレンズを用いた方式の2方式について研究を行う計画であった。提案書から予算が減額されたこともあり、本年度はこれらのうちの前者について集中的に研究を進めた。具体的には、提案方式に基づく実機の製作と、レフラクトメータによる映像観察時の眼の計測による提案手法の評価の2点について成果を挙げた。 装置製作においては、35視点の多視点ディスプレイと、8枚のモノクロ液晶からなるボリュームディスプレイを組み合わせた17インチ相当の実機を作成した。ここで、多視点表示部にっいては、工学シミュレータにより、映像の収差が少なくなる条件に関する分析を詳しく行い、多くの知見を新たに得た。一方、ボリューム表示部については、モノクロ液晶の枚数を増やし、奥行き解像度を向上させることを計画していたが、8枚でもかなりの画質劣化が見られ、現状のディスプレイ材料を使うと、それ以上の枚数増加は難しいことが分かった。製作した装置において、被験者にクレーンゲームアプリを行わせる評価実験を行ったところ、エッジのボリューム表示追加による奥行き知覚の向上が有意に見られることが確かめられた。 一方、レフラクトメータを使った眼の計測実験においては、(1)エッジ部のボリューム表示により眼の焦点調節を誘導できること、(2)その誘導の強さは、ボリューム表示におけるエッジの強度に比例すること、(3)ボリューム表示がないときは、多視点映像のぽかしにより焦点調節が輻較に引きずられること、(4)にもかかわらず、エッジ部のボリューム表示が追加されると、多視点映像のぼかし強度の影響はあまりないことなどが確認された。
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