手首の書字運動中の筋電信号から筋骨格系の運動プリミティブを抽出するためには、運動のキネマティクスと関与する複数の筋活動の関係を詳細に分析する必要がある。初年度は、最初にそれを可能にする手首運動筋電図解析システムを開発した。本システムは人間用の手首マニピュランダム、ノートPC、小型軽量のUSB接続A/D変換インターフェースの3点のみから構成され、手首関節の2自由度の動きと4チャネルの筋電図活動をリアルタイムで記録・解析できる便利なシステムである。また、このシステムは自作したソフトウェアで動作し、ライセンス等の問題を回避でき、今後特許も申請する予定である。次いで、運動プリミティブに対するフィードバックの与え方等の運動実行条件の影響を検討するため、複数の運動課題を考案した。申請時から考えていた手首関節による視覚フィードバックありの書字運動に加えて、視覚フィードバックなしの書字運動や動く指標の追跡運動、手首の8方向への直線運動など様々な手首運動を追加した。実際の実験では、正常被験者に加えて東京都立神経病院の入院患者の協力を得て、神経疾患による運動プリミティブの変性についても検討した。これまでに正常被験者17名、小脳疾患9名(脊髄小脳変性症6名、多系統萎縮症3名)、パーキンソン病14名、動作性ミオクローヌス1名からデータを取得し、神経疾患による筋骨格系の運動プリミティブの特徴抽出を試みている。予備的な結果であるが、神経疾患の患者では、正常コントロールと比べて手首関節の動きや手首の主動筋(擁側手根屈筋、尺側手根屈筋、長椌側手根伸筋、尺側手根伸筋)の活動パターンに疾患固有の明らかな違いが見られる。今後はこの固有パターンの解析から異常運動の中枢メカニズムを解明すると共に、疾患-正常運動プリミティブとの比較から、プリミティブ生成に関わる中枢神経機構の解明を試みる。
|