研究概要 |
20例の実手術計測を行い,約6300区間分の手術操作データを収集した。同時に,患者の生理心理応答指標として,心電,連続血圧,脈波および呼吸の各波形データを収集した。 医師については,手術進行アンケート(手術中の操作の移り変わり毎に,その理由をアンケート方式で記録)を5例実施した。医師による患者の疼痛検知に関し,手術進行アンケート解析の結果,操作を中止した理由として,「疼痛発生予期による操作中止」が4%に対し,「疼痛発生による中止」が13%に上ることが明らかとなった。結果,術中の疼痛発生予期の困難性と,息づかい特徴等による患者の疼痛検知技術の重要性を示した。 術中患者の痛みによる反射的動作や心理的圧迫による力み動作の結果現れると考えられる呼吸波形の特徴的な形状="息づかい特徴"に注目し,特に患者間での息づかい特徴の出現特性について検証を行った。結果,特に呼吸間に挿入されるポーズ区間の平均長および呼吸高不安定度(呼吸振幅のバラツキ度)において顕著な患者間差を発見した。また,前者(呼吸振幅/ポーズ区間変化優位型)は,心拍数と連続血圧の変化量に高い相関が見られ,後者(呼吸不安定度優位型)では無相関となることを発見した。加えて,これらの差異の発生機序について血行力学的側面から実験的検証を行った。二つの息づかい特徴発生時における総抹消血管抵抗値(TPR)を比較した結果,単調な呼吸抑制やポーズ区間の延長が生じる場合,TPR値の変化は小さく,単純な呼吸抑制効果による心拍数・血圧値の低下が見られ,呼吸高の不安定度が増加する場合は,TPR値が急増し,その結果急激な呼吸抑制による心拍数減少と同時にTPR値増加による血圧値の急増が見られた。この結果から,患者の刺激に対する対処方法(力み方法)の差異が,心拍数・血圧値変化の差異を生じさせ,その検知および判別指標としての息づかい特徴の有効性を示した。
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