従来の研究では、作業空間内に存在する有意味な音声雑音をそれとは異なる別の音でマスクするといった雑音対策手法の有効性について確認されている。しかしながら、マスキング音として帯域制限ピンク雑音を用いており、音楽等の変動音を用いた場合については検討されていない。また、知的作業を比較的継続時間の短い作業に限定して考察されている。このような観点から本研究では、音声等の有意味雑音存在下で知的作業を行なっている作業者に対して、マスキング音として定常音や変動音を長時間にわたって放射した場合、作業者のうるささ、心地よさ、好み等の心理的評価値がどのように変化するか、さらには上記に起因して、作業成績がどの程度となるかを考察することを目的としている。本年度は、作業現場に存在する有意味な音声雑音を帯域制限ピンク雑音、BGM、自然音等の様々な音でマスクした場合の作業者の心理的印象や正答率・反応時間といった作業成績について心理実験により調査し、最適なマスキング音の候補の選定とそれらの提示方法について検討した。 1.マスキング音に対するうるささ、心地よさ、好みなどの心理的評価の言語表現の設定と音響心理実験の方法を立案した。 2.様々な音声信号を収録して周波数分析を行った。種々の音声を低レベル値で頑健にマスクするためのマスキング音のスペクトル形状の候補を決定した。 3.2.で決定したスペクトル形状をもつようなBGM、自然音を収集してCD、DVDに収録した。 4.防音室内において、3.で収集したマスキング音を放射した上で心理実験を行った。作業の種類や継続時間等を種々変更しながら測定を行った。 5.心理実験の結果から、様々な音声雑音を頑健にマスクでき、しかも心理的印象を効果的に改善できるマスキング音の候補を決定した。周波数帯域を[177〜5656][Hz]で制限したピンク雑音を音声雑音とのSN比が3[dB]となるように放射した場合に特に大きな効果が得られた。
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