プレーヤーの認知構造と社会慣習・互恵性の進化における「評判」の役割を分析するため、ジレンマ状況における間接的互恵性の進化を、協力、裏切り、互恵戦略の三者がいる状態について、その均衡の安定性と、進化的ダイナミクスについて検証した。分析手法としては、進化シミュレータを作成し、それにより数値計算での分析と、進化ゲーム論的均衡分析、さらに、微分方程式の数値シミュレーションの三種の方向からの分析の他、実際の人間を使った被験者実験による妥当性の検証を行った。まず、数値計算と均衡分析の結果から、多人数相互作用系において二人ゲームの場合より、かえって互恵的利他行動による協調関係が進化しうることを示した。つまり、良い評判の相手には協力し、そうでない相手には裏切るという戦略が、人数の増加により安定化しうる。ただし、さらに人数が増えると、協力行動の進化は困難になることも分かった。また、進化的ダイナミクスの分析により、突然変異の効果を導入すると複雑な頻度ダイナミクスが起こりうること、また、それにより協調状態が維持される場合があることが示された。さらに、被験者実験の結果からは、相互作用の人数増加について、上記の理論的分析の正しさが証明され、また、直接的相互作用の場合に比べて評判を通した相互作用の場合は協力行動が形成されにくいことが証明された。さらに、実際の人間は、相手グループの評判の分布が一様でない場合裏切りやすいということが示唆された。
|