本研究課題では、動的再構成型デバイスを用いて大規模かつ実時間学習可能なニューロチップの開発を目的とする。具体的には、Grossbergらが提案した安定性と可塑性を併せ持つ追加学習型ニューラルネットワークのART(Adaptive Resonance Theory)ネットワークをハードウェア化するとともに、設計資産としてのIP(Intellectual Property)化を目指している。本年度は以下の結果を得た。 1.複素化に向けた検討 連続値入力が可能なART2ネットワークを複素化することにより、ガボールウェーブレット変換により得られる特徴量を複素数のまま入力することが可能となった。しかしながら、性能面では特徴的な差異は得られなかった。学習における結合荷重の更新方法に更なる検討が必要である。 2.公開データベースを用いた性能評価 照明変動を扱う大規模データベースとして広く知られているThe Yale Face Database Bを用いて、本手法の照明変動への頑強性を評価した。誤差逆伝搬ネットワークやサポートベクタマシン等のニューラルネットワークと比較した結果、特に照明変動の影響が強くなるデータセット(レベル4-5)において汎化性の高い結果が得られた。 3.エピソード記憶の工学的モデルへの拡張 自己組織化マップと組み合わせることにより、シーンのコンテクストと表情から得られる感情をARTを用いて追加的に学習することで出来事の記憶であるエピソード記憶の工学的モデルが構築できる見通しを得た。
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