本研究は、目に見えにくい科学技術活動を複雑ネットワーク分析という枠組みで記述し、学術論文がイノベーションの核となっていくプロセスを、材料科学分野におけるケーススタディを通して定量的に分析することで、イノベーションプロセスに関する新たな知見を得ること、科学技術における課題設定・戦略策定に関する意思決定支援ツールの開発を目的としている。 本年度の研究では、大量の文献群からトレンドをいち早く検出する方法として、学術論文の引用情報をもとに、対象とする学問分野の発展の様子を可視化する手法を開発した。これにより、ある学問領域がどのように他の分野と相互に関連しながら発展していくかを追跡することや、その中での萌芽的な研究分野を把握することが可能になった。また、萌芽的な分野の中から将来重要になりそうな論文を特定する手法を開発した。具体的には、重要論文のネットワーク中での位置の変遷を、中心性、媒介性といったネットワーク指標を用いて追跡した。その結果、分野の勃興期においては、媒介中心性が、成熟期においては、被引用回数がその後の被引用回数を決める重要な要素であることが分かった。この結果は、起こりつつある分野における将来の重要なコア論文をまだそれと認識される以前の早期に検出することを可能とする。 又、持続可能性やナノバイオテクノロジーなど、社会的に有用・必要であるものの、分野融合的であるために全体像が見えにくい学術分野を対象として学術俯瞰を行った。最終年度である次年度は、得られた結果を政策立案者にフィードバックすることでさらに研究を発展させていきたい。
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