研究概要 |
筆者は前の研究で,第二次世界大戦後初期に日本ではじめて学校図書館論の形成が取り組まれた際,滑川道夫らが「読書指導」を戦前の日本の教育実践からの連続として継承させていたことを明らかにした。筆者はその研究を受け,滑川の読書指導論が戦後の日本の学校図書館論に与えた影響は大きいだろうと推測し,その影響について具体的に明らかにしたいと考えた。 研究に着手した初年度の2006年度は史料収集に追われた。滑川自身が記し公にされた資料については,9割方収集を終えた。ただし公にされていなかったような資料については,現時点までに新たに存在を確認することはできていない。また滑川と共に,戦前から戦後をとおして児童・生徒に対する「読書指導」に関心をもっていた教育界の重鎮であった城戸幡太郎についても,本年度,史料収集を開始したが,同氏の「読書指導」論を解明するに充分と考えられるだけのまとまった資料は現在までのところみつかっていない。 滑川の資料を整理したこれまでの作業から,滑川の読書指導論の戦前と戦後に関わって次のような仮説が生み出された。次年度以降これらを検証し,学会発表・論文の執筆を行いたいと考えている。 ・滑川の読書指導論は戦前から戦後をとおして,狭く読書;国語(読解や綴方/作文)の指導としてではなく,生活;児童文化に関わる指導および教育環境整備として考えられていた。滑川の教育論の全体像を明らかにしないかぎり,滑川の読書指導論は解明できないだろう。 ・滑川の読書指導論の戦前と戦後には連続の側面が目立つ。戦時中に記された『少国民文学試論』(帝国教育会出版部,1942)と戦後に記されたものを比較しても,子どもたちに「良書」を,との思想は一貫していたようにみえる。児童文学者でもあった滑川が児童向けの図書の善し悪しをいかに考えていたのかについて詳しく分析することが,滑川の読書指導論の分析の核となるだろう。
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