研究概要 |
本研究の目的は, 収斂的支援を行なう匿名保証型DSSをインプリメントし, 収斂過程が改善するか否かを「多数の代替案や反対案が洗練された少数案となるか否か」の視点から実証的に確認することである, 匿名の代表者相互の討議で議事シナリオが動的に変化しうる点が技術的焦点であり, 議論の展開結果を反映して議事支援プロセスを動的に変更して利用できる機構が必要となる。本年度は, 議論の順序変更の支援を超え, 新たに<A : 他者案の部分的採用や他者案に対する支持の変更が任意の時点で可能な機構>と, <B : 発言回数の制限や問題を含む発言の隠蔽等の秩序維持処理を参加者が共同で行なう機構>を設計して実装し, 議事支援機構を拡張した。この上で580人の学生を電子的発言権保有者として登録し, 図書館の購入書籍の推薦案を共同作成する文脈でシステム利用実験を行なった。案相互の類似性を共通書籍の包含率として評価して記録した結果, 複数の案が相互に収斂していく過程を確認できた。当初計画のとおり, 実験ではシステム内で評価の高い案が図書館に提出する最終案に反映されることを保証し, 参加者への謝金は準備せずに議案提出権自体を報酬とした。また, 以下の1)-3)の条件を前提した : 1)書籍購入の予算枠は3カテゴリがあり, 各枠はある程度変更可能であること。2)「カテゴリ間でバランスの取れた案」を導出すること。3)「カテゴリ内でバランスの取れた案」を導出すること。「バランス」の評価など明確な基準が見出しにくい中で, 参加者自身の相互作用により議論が収斂しうることを確認できた点が重要である。また本研究の<B>の自律的な秩序維持機構は, 予算決定以外の文脈における, より秩序維持の困難な多様なコミュニケーションシステムへの応用が期待される仕組みであり, 当初計画以上の成果である。以上の成果と得た知見について, 国際会議を含め国内外で発表を行なった。
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