研究概要 |
三次元物体認知における能動的運動の効果について,心理実験およびMEGによる脳機能イメージングによって検討を行った.従来の研究では,被験者が新奇物体を-45°〜45°の範囲で垂直回転させ,景観の変化を能動的に観察した場合に,受動的に観察した場合より,垂直回転した景観の般化成績が有意に向上することがわかっている.そこで,回転可能な範囲や方向を操作して,般化成績の向上が起こる条件について分析を行った.回転可能範囲を垂直回転±60°に拡大した場合は,垂直回転-60°の景観のみ般化成績が向上する傾向が見られた.観察時に用いた物体は,その後の般化課題で用いた物体と同じカテゴリの新奇物体ではあるが,異なる物体であったことから,被験者は観察時に景観を明示的に記憶していたのではなく,物体カテゴリ固有の視点変換規則を学習していたと考えられる.一方,+60°の景観では成績向上が見られなかったことから,垂直回転の上下方向で視点変換規則の学習しやすさが異なることが示唆された.また,水平方向±45°の回転で能動的観察を行った場合では,般化範囲の拡大は見られるものの,有意な向上は見られなかった.このことから,縦方向と比較して,横方向の回転には景観の能動的探索の効果は小さいことが示唆された.さらに,MEGによって,景観の般化課題を行っている被験者の脳活動を測定した.その結果,能動的観察を行った被験者群では,能動的観察後のセッションでテスト刺激提示後200-400msにおいて左半球の脳磁信号強度に有意な減少が見られた.一方,この傾向は,受動的に観察を行った被験者群では見られなかった.この時間帯は多くの被験者で左頭頂間溝周辺に磁場源が推定されており,左頭頂間溝は心的回転課題で活動が報告されている領域であることから,能動的運動によって心的回転にかかる負荷が減少した可能性が考えられる.
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