推論ゲームを解くためには、複雑な規則の理解、不確実要素を含む情報の統合、統合情報に基づく推論など、複数の情報処理を実行することが重要であり、ヒト固有の高度な知能が必要となる。本研究では、推論に関わる脳部位を特定するために、機械学習分野で提案されている推論課題を拡張し、不確実環境における報酬依存意思決定課題を提案した。本課題で被験者は、非観測状態と状態遷移の両方を推定する必要がある。これらの推定過程がヒトの高次機能の中枢部位である脳の前頭前野で行われているという仮説のもと、ヒトの行動およびfMRI実験を行った。解析の結果、ヒトは数学的最適戦略とは異なる戦略を取っており、これは負の報酬に関する主観的価値が大きくなるというプロスペクト理論によって説明できることが示唆された。さらに、行動データを説明する情報処理モデルを構築し、計算モデルに基づいた脳画像解析により、2種類の推定が前頭前野の異なる部位で行われていることを指示する結果を得た。これらの結果は、本年度内に研究会にて口頭発表する。また、さらなる考察を加え来年度に論文誌へ投稿することも予定している。 さらに、前頭前野において階層的な情報表現、さらにはその階層性の生成が行われているという仮説のもと、階層的学習ゲームであるWater Jug problemを実装し、行動実験を行った。行動データ解析により、ヒトが課題の階層構造を認識して効率良い学習を行っていることが支持されたため、学習モデルの構築とfMRI実験を進めることを予定している。
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