研究概要 |
文字や単語を呈示しその認識を被験者に行わせる実験では左右の両側頭部,後頭部などの活動が観察される.このことは一般的に知られている言語優位半球が左側頭葉にあるとすることと一致しない.この理由は文字などを見た際の脳活動には,文字認知の過程における言語活動だけではなく,視覚的な処理などが含まれることが原因であると考えることができる.文字認知の時間的推移を調べる第一歩として,マスキングの度合いを強、中、弱、無(以下マスク(強)、(中)、(弱)、(無)と記述)の刺激4種を用意し,脳活動の中で文字認知に関する部分だけがマスキング度合に応じた活動をすると考え,その活動を脳磁界により計測した. 刺激は、平仮名2文字の単語(例:やま、かわ、みち)・非単語(例:もぽ、きあ、てど)の2つのカテゴリのうちからランダムで呈示し、続いて空白なし(マスク効果(強))・空白17ms(マスク効果(中)),34ms(マスク効果(弱)),約100ms(マスク効果(無))のいずれかとした後,ハングル文字をマスク画像として呈示した。 タスク正答率に明らかな差異がありながら,およそ潜時200ms近辺までの活動では明確な差は見られなかった.次に左右両側頭部200ms付近でマスク(強)マスク(中)マスク(弱)マスク(無)のすべてにおいて大きな脳磁界反応が見られた.しかしながら,この活動は正答率(文字認識率)と同様の傾向ではなかった.つまり,言語処理そのものではなく文字認識の前段階の処理の活動だと考える. マスキングの度合いに応じた活動が多くの被験者で見られたのは左側頭部の250ms以降の活動であり,この活動が文字認知に関わるものであることが推測された.またこのマスキングの度合いに応じた活動が観察された時間帯は被験者により最大100ms程度の違いがあった.これは文字の認知の処理にかかる時間が被験者によって異なるためだと考える.
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