本研究では、人間の一貫性の無い、矛盾した意思決定行動を解析し、不確実性や不確定性を含む複雑な意思決定構造を明らかにすることを目的として、ラフ集合の概念を用いたデータ分析モデルの構築に取組んでいる。ラフ集合(Rough Sets)はZ.Pawlakによって提案された情報近似のための数学的概念である。ラフ集合では、同値関係や類似関係、順序関係などによる集合を「知識」とみなして、種々の情報をこの知識で表現するために、2つの観点からの近似が提案されている。それぞれの近似からIF-Thenルールを抽出することができる上に、定義された関係による集合に基づく近似に対して、多様な知識の表現を考えることができる。このような特徴から、ラフ集合の拡張とその解釈に関する研究が最近盛んに行われている。 今年度の研究においては、情報の評価問題に着目し、意思決定者が評価を行う上で起こりうる評価の不確定性を、ラフ集合の情報近似概念を用いて表現することを試みた。具体的には、与えられた情報に対して(半順序関係を満足する)区間値による評価を行い、その情報が有する種々の性質(属性)と評価との関係をIF-Then形式のルールで抽出し、意思決定者が下す評価の不確定性を定性的に考察した。その結果、区間値の与え方が冗長である場合に、評価の不確定性が生じる傾向にあることがわかった。特に、隣接する評価値の間で、明確な優劣をつけることが困難な場合は、その評価は幅の広い区間値として表されている。このことは、評価の程度に対して明確な基準を持っていない状態と解釈できることから、こういった評価の閾値の中には取り除くことが可能なものが含まれていて、こういった有意でない区切りを取り除くことで、評価の不確定性を減らすことが実現可能と考えられる。
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