研究課題
生体由来の目的の試料から蛋白質を同定する工程は、プロテオミクスをはじめとする生物科学研究において必須のステップである。現在では、質量分析法(MS)と配列データベース検索を組み合わせた方法論がほぼ確立しており、基礎研究ばかりでなく、臨床マーカー探索などの応用分野にも利用されている。この方法論の適用に際しては、検索結果の中に含まれる多くの偽陽性ヒットの取り扱いと、最低一個のペプチド割り当てから同定の信頼性を確保することが重要な課題である。本研究は、軽水素/重水素(H/D)交換反応によるペプチド分子の質量シフト、および質量シフト値を蛋白質同定の評価基準として導入することを目的とする。条件検討のため、ウシ血清アルブミンのトリプシン消化ペプチド混合物、およびリン酸化やN-アセチル化などの翻訳後修飾を含む数種の合成ペプチドを用いた。組成中の水が軽水(H_2O)である溶媒と、重水(D_2O)に置き換えた溶媒に対してそれぞれペプチド混合物を溶解した。溶解試料を、ESIを介して四重極イオントラップ型質量分析計に連続注入した。プロトン化あるいは重水素イオン化ペプチド分子の質量スペクトルと、CID MS/MSによるプロダクトイオンスペクトルを取得し、両分子の測定データを比較した。これまでの検討では、測定した全てのペプチドの質量スペクトルは両者でほぼ同様の同位体分布を示した。比較によって得られる質量シフトの実測値は、測定精度の範囲内で理論値と一致した。プロダクトイオンスペクトルにおいても理論値とよく合う質量シフトが観測され、相対イオン強度にも本質的な違いは見られなかった。今回のアプローチでは、一次構造から一義的に決まる理論値と、ほぼ完全に重水素交換したペプチドの実測値を利用してペプチド同定の妥当性を評価することが重要である。蛋白質混合物のための実用的な分析システムの構築が今後の課題である。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (5件)
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Abstracts of the 20th IUBMB International Congress of Biochemistry and Molecular Biology and the 11th FAOBMB Congress
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