研究背景 : 2008年11月時点において、日本で認可されている抗HIV薬は22種類ある。ところが、すべての抗HIV薬は薬剤耐性化の問題を抱えているため、HIV患者のアドピアランスを低下させることになる多剤併用療法(HAART)が推奨されている。患者のアドピアランスを改善するためにも、単剤で薬剤耐性を起こしにくい抗HIV薬が求められている。そこで、本年度は、抗HIV薬の薬剤耐性化問題に取り組んだ。具体的には、薬剤耐性変異を起こさない薬剤ターゲットが備える特徴とは何か、という問題を検討した。 本研究のアプローチ : 本研究が採用したアプローチは、ネットワークアプローチである。近年、ネットワークアプローチの考えは、ドラッグディスカバリーの分野で重要視されてきている。ネットワークアプローチでは、分子間の相互作用関係に注目する。本研究では、多数の分子と相互作用関係をもつ「ハブ」分子が、薬剤耐性化に抵抗性を持つのではないか、と考え、「ハブ」薬剤標的分子をモデル化し、薬剤耐性化を起こす確率を算出した。 本研究の成果 : 「ハブ」薬剤標的分子をモデル化し、薬剤耐性化を起こす確率を定式化した。その結果、薬剤耐性化確率が、ハブ標的分子と相互作用している分子の数(ハブの次数)のべき乗で減少することを証明した。すなわち、ハブの次数が高い分子を薬剤の標的としたとき、薬剤耐性化が起こるリスクを軽減できることを明らかにした。この成果は、薬剤耐性化に抵抗性のある薬剤標的分子を探索する際の重要な知見となると考える。
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