研究概要 |
胞胚期から原腸胚期にかけての胚サイズの形態とサイズが三胚葉の分化に果たす役割を検証する過程で,各胚葉内のパターン形成に関連深い現象を見いだすことができた。下等脊椎動物の胞胚は多くの場合球形に近く,各胚葉の予定原基の相対的な位置関係も似通っている。材料に用いたゼブラダニオは特に細胞の大きさが均一であること,植物極側の大きな卵黄細胞が実質的に胞胚の形状を支配しており,また予定中・内胚葉領域の赤道部境界としても役立っている。卵黄細胞は受精直後から胞胚期にかけて微細なガラス針で一部を非破壊的に取除くことができるが,胞胚期に直径の約3割以上を取除かれた胚は,後の胴尾部の形態形成に異常が生じることぶ明らかとなった。異常胚の胴尾部は本来直線的に伸長すべきところを背側こ反り返った形態となるが,この種の表現型は後期の背腹パターンの異常に起因する可能性溝高い。興味深いことに,卵黄細胞の一部を除去した胚は他の卵黄細胞の再移植(細胞融合)によって卵黄サイズを回復させると容易に救出できることが分かった。移植する卵黄細胞の由来や時期に特に制約は見られない。そのため胞胚期の卵黄細胞と胴尾部形成との関係は,初期卵割期に見られるような特異な細胞質因子による発生学的決定ではなく,物理的な空間サイズによる調節現象と予測するのが理に適っている。現在この仮説の正当性を確認するため,卵黄の栄養的要求などが関与している可能性を排除する実験系を検討している。今後の展開として,同様の手法で胞胚を大型化した場合に逆のタイプの腸尾部異常が生じるか,また原腸形成の過程を詳述し背腹パターンの形成とどのように関係しているかを明らかにする必要がある。さらに初年度の三胚葉形成と合わせて,胞胚表面での簡単なパターン形成モデルとして一貫した解釈を示せるか,それとも細胞運動の要素も考慮すべきか検討したいと考えている。
|